大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)934号 判決

主文

本件上告を却下する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

一、職権をもつて調査すると、上告人らは、本訴において、

(一)  上告人ヒルトン・インターナショナル・カンパニー(以下、上告人ヒルトン・インターナショナルという。)及び上告人日本ヒルトン株式会社(以下、上告人日本ヒルトンという。)が、訴外ヒルトン・インターナショナル・カンパニー(以下、旧ヒルトン・インターナショナルという。)と被上告人東京急行電鉄株式会社(以下、被上告人東急という。)との間において昭和三三年一二月一八日締結されたホテル営業委託契約及び補足契約に基づき、並びに上告人日本ヒルトン及び旧ヒルトン・インターナショナルと被上告人東急及び被上告人株式会社ホテル・ジャパン東急(以下、被上告人ホテル・東急という。)との間において昭和三八年四月二三日締結された覚書(以下、右ホテル営業委託契約、補足契約及び覚書をまとめて本件委託契約という。)に基づき、東京都千代田区永田町二丁目所在東京ヒルトン・ホテルの営業受託者であることを確認する、

(二)  上告人日本ヒルトンの代表取締役ジェー・エー・クレグ(以下、クレグという。)が被上告人ホテル・東急雇傭の東京ヒルトン・ホテルの総支配人であることを確認する、

(三)  被上告人両名は、クレグが東京ヒルトン・ホテルの総支配人としてなす一切の営業活動を妨害してはならない、

(四)  被上告人両名は、新聞、雑誌、その他の出版物、ラジオ、テレビ等を通じ又はその他の方法をもつて、上告人らの本件委託契約に基づく営業受託者としての地位が消滅した旨を標榜、表示してはならない、

(五)  被上告人両名が右(三)記載の不作為義務に違反してクレグの営業活動を妨害し又は右(四)記載の不作為義務に違反して上告人らの本件委託契約に基づく営業受託者としての地位が消滅した旨を標榜、表示したときは、被上告人両名は、いずれも上告人ヒルトン・インターナショナル及び上告人日本ヒルトンに対し、右妨害又は標榜、表示をした日以降右行為を中止するに至るまで一日につき金九〇五万七六七六円を支払え、との各請求をしていることは、記録上、明らかである。

二、 ところで、一つの訴をもつて数個の財産権上の請求をする場合、民事訴訟用印紙法(明治二三年法律第六五号、以下同じ。)に従つて、その訴状又は上訴状に貼用すべき印紙額算定の基礎となる訴額(以下、単に訴額というときはこの意味の訴額をいう。)は、原則として請求の価額を合算して定めるべきであるが、数個の請求の経済的利益が共通しているときは、請求の価額を合算して定めるべきではなく、数個の請求のうち最も多額な請求の価額によつて定めるべきである(同法二条二項、民訴法二二条一項、二三条)。本件(一)ないし(五)の各請求は、いずれも財産権上の請求であり、また、経済的利益を共通にするものであつて、本件(一)の請求が最も多額な請求であることは明らかである。したがつて、本件訴額は、本件(一)の請求の価額によることとなるが、右請求は、上告人ヒルトン・インターナショナル及び上告人日本ヒルトンが、本件委託契約に基づき、東京ヒルトン・ホテルの営業受託者たる地位にあることの確認を求めるものであるところ、記録によれば、上告人らは、この営業受託者たる地位に基づき委託手数料(報賞金を含む。以下同じ。)の支払を受けるのであるから、(一)の請求の価額は、起訴当時を基準として、本件委託契約の残存期間中に上告人らが支払を受けるべき委託手数料(以下、これを本件委託手数料という。)の額によつて定めるべきである。

三、財産権上の請求であつて、その価額の算定が著しく困難なものについては、裁判長又は裁判所は、その価額の算定にとつて重要な諸要因を確定し、これを基礎とし、裁量によつて右請求の価額を評価算定しうるものと解するのが相当である。そして、訴額が特定企業の将来の営業収益を基礎として算定すべき場合においては、営業収益が、好、不況等の一般的経済界の状況、当該企業の属する特定の業界内の条件、あるいは経営者の交替等の当該企業内の事情によつて影響を受け、変動を免れないものであるから、将来の営業収益の正確な予測、したがつてまた、これを基礎とする訴額の算定も著しく困難というべきであり、右の場合、起訴時を基準とした特定の企業の営業収益は、起訴時以前の期間であつて将来存在しえないような異常な事情の存する期間を除いた過去少なくとも三年間の期間の収益等に準拠して、将来の収益の現在価額を求めたうえ、営業収益に及ぼす前記の諸要因を考慮して定めるべきであり、かくして得られた営業収益を基礎とし、裁判長又は裁判所の裁量によつて訴額を算定すべきである。

本件において、委託手数料は、東京ヒルトン・ホテルの営業収益を基礎として本件委託契約所定の方法に従い算定されることが明らかであるから、本件委託手数料の額、したがつて本件訴額は叙上の見地に従つて評価算定すべきものであり、このような見地に立つて本件委託手数料を算定した当裁判所の判断は、原判決理由(二)及び原判決引用の一審決定理由(一)ないし(三)記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

四、したがつて、本件の訴額は金一〇億円と認められるから、上告状には右に対応する金一〇〇〇万二六〇〇円の印紙を貼用すべきであることが明らかである(民事訴訟費用等に関する法律及び刑事訴訟費用等に関する法律施行法三条一項、民事訴訟用印紙法二条、五条)。ところが、上告人らは本件上告状に金一〇〇〇円の印紙を貼用したに止まるから、当裁判所は昭和四八年一二月一二日付で上告人らに対し不足額に相当する金一〇〇〇万一六〇〇円の印紙を決定送達の日から一四日以内に追貼すべき旨決定し、右決定は同月一七日上告人らの代理人に到達したにもかかわらず、上告人らは右印紙を追貼しないので、本件上告は、結局、不適法であり、その欠缺は補正することができないものといわなければならない。

よつて、民訴法三九六条、三八三条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例